この世の最上の娯楽

 およそ世で娯楽と呼ばれるものを、わたしは楽しめたことがない。楽しめたとしても、決してその楽しさが長続きしたことはなかった。
 わたしが田舎に移り住み、多くのものを自給しようとしているのには、こうした事情が大いに関係している。 

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 われわれの文明において、「生存」ということはあまりに閑却されている。もはや生きていることは当たり前であり、そのうえでわれわれは種々の娯楽に興じているわけだ。
 だが、誰かに生存の条件をお膳立てしてもらった状態など、張り合いがなくつまらない。自分の手足で直接に自身の生命を営んでゆくことこそ、最も愉快な娯楽ではないか。
 だいたい、生命体の楽しみや喜びが、その生命活動自体に内在していないはずはない。にもかかわらず、生存することを一手段にしてまで、それとは別のところに楽しみを探すとはなんとも可笑しな話である。
 尤も、それだけわれわれの文明が進んでいるという見方もできる。実際、わたしとてその恩恵に浴する身であるからには、あまり勝手なことは言えないのであるが、しかし、楽しくないものは楽しくない。
 
 結局のところ、いくら文明が進展し、新たな娯楽が発明されたところで、われわれが生物である以上は、どれも高が知れている。
 最上のものは最初にある。つまり、自給行為にまさる人生の娯楽はないのである。