さようなら

 一時の人恋しさで誰かに会ってもいいことはない。そう経験則として知ってはいるものの、こう一気に秋めいては閉口する。

 

 大切な人を先日亡くした。

 森下さん、享年九十二。

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 一昨年、大宇陀に移り住んだばかりの右も左もわからないわたしに、病いをおして野良仕事のいろはを教えてくださった方。まるで実の孫に接するかのようにいつもやさしい、風流で、几帳面な方だった。

 鍬の使い方、木の切り方、縄の綯い方、刈払い機の扱い方、等々を手取り足取り指導していただいたばかりか、田畠を貸してくださり、あまつさえ敷地内に鶏舎まで建てさせてくださった。この人との出会いなしには、わたしのここでの暮らしは今の半分も成り立っていないだろう。

 惜しい人を亡くした。

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 夜になって気温が下がってきた。乾いた冷たい空気を吸うたびに、さびしさが体内に侵入してくる。薄雲が星を隠してゆく。

 

 森下さん、さようなら。